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東京地方裁判所 昭和45年(ワ)9701号 判決

原告 有賀株式会社

右代表者代表取締役 山田雅四郎

右訴訟代理人弁護士 藤井与吉

被告 桜瀬元久

右訴訟代理人弁護士 内田剛弘

右訴訟復代理人弁護士 秋山幹男

主文

被告は原告に対し金一四六万九六五六円およびこれに対する昭和四五年七月一日から右完済に至るまで年六分の割合による金員の支払をせよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一双方の申立

一  原告訴訟代理人は、主文第一、二項と同旨の判決ならびにこれに対する仮執行の宣言を求めた。

二  被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求めた。

第二双方の主張

一  原告の請求原因

(一)  原告会社は、もと商号を有賀証券株式会社と称し、有価証券の売買およびその媒介並びに取次等を業としていたが、昭和四五年八月五日その目的を有価証券に関する保管事務に変更すると共に、商号を、有賀株式会社と変更し、同月一四日その旨の登記を了した。

(二)  被告は、原告会社が商号を有賀証券株式会社と称し有価証券の売買および媒介等を業としていた当時の顧客であるが、原告会社に対し株式の信用取引を委託し、原告会社はその委託に基づいて次のとおりの株式の買付並びに売付をした。

(1)(新明和工業株式会社株式一万株)

(イ) 昭和四四年一一月一七日買付

買付代金 九三〇万円

(ロ) 同四五年五月一六日売付

売付代金 四三〇万円

(2)(同和鉱業株式会社株式一万株)

(イ) 昭和四五年四月二二日買付

買付代金 一五一万円

(ロ) 同年五月一九日売付

売付代金 一一六万円

(三)  右取引の結果、被告は原告会社に対し次の金員の支払義務を負うこととなった。

(1)(新明和工業株式の売買につき)

(イ) 差損金     五〇〇万円

(ロ) 買付手数料     五万円

(ハ) 売付手数料 二万九〇〇〇円

(ニ) 管理料     五〇〇〇円

(ホ) 取引税     六四五〇円

(ヘ) 日歩   四三万八四一九円

合計金     五五二万八八六九円

(2)(同和鉱業株式の売買につき)

(イ) 差損金      三五万円

(ロ) 買付手数料     二万円

(ハ) 売付手数料 一万九〇〇〇円

(ニ) 取引税     一七四〇円

(ホ) 日歩    一万〇九九一円

合計金      四〇万一七三一円

(3) 以上(1)(2)の合計金 五九三万〇六〇〇円

(四)  そこで、原告会社は、被告が原告会社に対し有する次の債権を前項の支払金に充当した。

(1) 昭和四五年二〇日、帳尻預り金二万〇六八八円および信用取引委託保証金四四〇万八三八一円

(2) 同年六月六日、新明和工業株式会社配当金三万一八七五円

その結果、残金は一四六万九六五六円となった。

原告会社は被告に対し、昭和四五年六月二四日付で翌二五日到達の書留内容証明郵便により同月三〇日までに右残金を支払うよう催告した。

(五)  よって、原告は被告に対し金一四六万九六五六円およびこれに対する昭和四五年七月一日から右完済に至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  被告の請求原因に対する答弁および抗弁

(一)(請求原因に対する答弁)

請求原因(一)および(二)記載の事実は認めるが、同(三)および(四)記載の事実は不知。同(五)記載の主張は争う。

(二)(被告の抗弁)

東京証券取引所制定の受託契約準則第一三条の八によると、「会員は、第一三条の六第一号により計算した委託保証金の残額が、その信用取引に係る有価証券の約定価額の二〇%を下ることになったときは、当該約定価額の二〇%を維持するに必要な額の金銭を委託保証金として当該顧客からその損失計算が生じた日の翌々日正午までに追加差入れさせなければならない」とあり、また、商慣習もしかりである。しかるに、原告は別紙一覧表記載(7)、(8)、(13)のとおり、被告の信用取引に係る本件新明和工業および同和鉱業の株式の約定価額が昭和四五年三月一二日以降二〇%を下っていたのに被告に対し、その都度委託保証金の追加差入を通知督促していないが、前記準則は証券取引法四九条の法意と同じく、過当投機を抑制し、投資者を保護する趣旨であるから原告主張の各取引は公序良俗に反して無効なものである。

三  被告の抗弁に対する原告の答弁

被告の本件各取引とそれに対する追加委託保証金を必要としたのは、別紙一覧表(7)、(8)、(13)に記載のとおりであり、被告は、追加保証金の必要が生じた場合にはその都度、被告会社の従業員浜中信一郎を介して、被告に対し納入方を請求したが、被告がそれに応じなかったものである。

仮に、被告が追加保証金の請求をしていなかったとしても、前記証券取引法四九条、受託契約準則第一三条の八の規定はいずれも、取締規定であって、効力規定ではないので、それに反するからといって右取引が無効となるものではない。

第三証拠≪省略≫

理由

一(原告の請求原因)

原告の請求原因(一)および(二)記載の事実は当事者間に争いがない。

次に、≪証拠省略≫によると、請求原因(三)および(四)記載の事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

二(被告の追加委託保証金の抗弁)

被告が、原告会社に委託して買付けた新明和工業の株式につき値洗の結果、別紙一覧表(7)、(8)、(13)のとおり追加委託保証金納入の必要となったことおよび同じく買付けた同和鉱業の株式につき値洗の結果、同表(13)のとおり追加委託保証金納入の必要となったことは当事者間に争いがなく、また、≪証拠省略≫によると、原告会社が被告に対し右追加委託保証金の納入請求をしていないことを認めることができる。

右事実によると、原告会社が東京証券取引所制定の受託契約準則第一三条の八に違反していることは明らかであるが、右準則が被告が主張するように過当投機の抑制とか、投資者の保護という趣旨を含んでいることは否定できないとしても、その主たる趣旨は受託者である証券業者の委託者に対する受託契約上の債権を担保するためのものであるから、原告会社が、右準則に違反して追加委託保証金の納入が必要であるのに、その追加請求をしないで前記株式取引を継続させたからといって、原、被告間の本件取引に基づく法律関係が無効となるものではない。

したがって、右準則または、これと同内容の商慣習に反することを理由として、本件取引に基づく法律関係が公序良俗に反して無効であるとの被告の主張は採用しない。

三 よって、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担については民訴法八九条、仮執行の宣言については同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 山口和男)

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